東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2788号 判決
原告
株式会社コー・シー
右代表者
小野宜任
右訴訟代理人
梅澤秀次
外二名
被告
江崎千鶴
右訴訟代理人
長岡邦
主文
被告が訴外野口和夫に対する東京法務局所属公証人吉良教三郎作成昭和四九年第三八二七号公正証書の執行力ある正本に基づいて昭和五一年四月一日別紙目録記載の各物件に対してなした強制執行は許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本件について当裁判所が昭和五一年四月一二日にした強制執行停止決定を認可する。
前項に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。
二〈証拠〉によれば、原告は、昭和五〇年一一月一日訴外野口和夫に一二五万円を貸付け、その担保として同人から本件物件を売買名下に譲受け、占有改定の方法によりその引渡を受けるとともに、同日、同人に対し本件物件を期間三年、賃料月額五〇〇〇円、支払期日毎月一五日の約定で賃貸した事実が認められる。
三被告は、原告と訴外野口和夫との間の本件物件に関する右契約関係が譲渡担保であることを理由に、優先弁済の訴によるべきであつて、第三者異議の訴によることは許されない旨主張する。
譲渡担保の目的物件の所有権を設定者から担保権利者に移転するものではあるが、右所有権移転は債権担保の目的をもつてなされるものであつて、担保権利者には被担保債権額の範囲内において目的物件の価値を把握させれば足り、その限度において債権者のために優先弁済権を確保すればその目的を達するのであるから、第三者が右目的物件に対して強制執行に及んだ場合において譲渡担保権者が第三者に主張しうる権利は、目的物件についての優先弁済権にとどまり、担保の目的をこえて目的物件についての所有権又は占有権を主張して第三者異議の訴にそつて強制執行を全面的に排除することは許されず、民事訴訟法五六五条の優先弁済の訴によるべきであるとの議論も当然成り立ち得るところである。
しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件譲渡担保の目的物たる本件物件の価額は前記被担保債権額を下回つており、このような場合にまで担保権利者には優先弁済を得させればよいとして強制執行の続行を許すものとすれば、執行債権者にとつては何ら得るところがないのに、担保権者に対しては無用の手続と不当な不利益を強いることとなり、相当ではないから、少なくともこのような場合には、担保権利者はその目的物件に対する所有権を主張して強制執行の排除を求めることができるものと解すべきである。
四そうとすれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可及びその仮執行の宣言について同法五六〇条、五四九条、五四八条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(魚住庸夫)
物件目録〈略〉